スシのはなし
『The Story of Sushi』 でジャーナリスト、トレヴァー・コーソン(Trevor Corson)は、多くのアメリカ人に愛されているわりにはその背景があまり知られていない 「スシ」文化を幅広く紹介する。1960年代、ロサンジェルスのリトル・トーキョーに渡来して以来、スシはエキゾティックでアドベンチャラスな新種の異国料理となり、アメリカ国内津々浦々のレストランやスーパーマーケットから、果てはスポーツの競技場でも親しまれるようになった。しかし、アメリカ人が「sushi」として知っているものは、日本独自の「鮨」の生まれ変わりにすぎない。スシの真実を語るため、作者は、スシに関わる30にもおよぶ生植物の育成・収穫・調理についてさまざまな検証をし、
世界中で高い評価を得た前作『The Secret Life of Lobsters』でも発揮されたすぐれたフィールドワークの手法を駆使し、東南アジア内陸でひっそりと生まれ、今やグローバルな人気を得るに至った鮨の魅力を掘り下げている。


「元来、生魚を食べるという日本の伝統はスシとは全く関係なかった」とコーソンは言う。「スシは古くなった魚を保存する方法として始まり、道端の屋台がそれを大衆向けのスナックとして売るようになった」。「鮨」という言葉自体が、メインの素材である「酢を混ぜた飯」を意味している。現代のようなスシ・バーの形式は第二次世界大戦後まで存在しなかった。
アメリカの占領軍の公衆衛生局が東京の屋台を室内に移らせたのだ。その他、驚きの事実。アメリカ人に大人気のタネは日本では伝統的に、食用として顧みられなかったものが多い。ほとんどの「スシ・ロール」はカリフォルニアで生まれた。


スシ文化の背景を探るため、コーソンはロサンジェルス郊外のスシ・アカデミーにて、一人の若い女性見習いシェフと彼女のクラスメートの12週間にわたるトレーニングに密着した。伝統的に鮨職人は、師匠の監視の下で何年も修行をしなければならないが、
CSA(カルフォルニア・スシ・アカデミー)はトシ・スギウラが考案したプログラムを実践している。トシは独学でスシを学び、80〜90年代のLAセレブ行きつけのビーチ・レストラン2つのオーナーシェフとなり、本人も業界のスターである。


CSAの講義はトシのレストランが営業していない日中に開かれ、講師はゾラン・レキックというオーストラリア生まれユーゴスラビア系の元ボディービルダーである。その他、デンマークの元女優/モデルや、 日本の男性アイドルグループCHA-CHAの元メンバー西尾拓美など、様々な顔ぶれをシェフに持つ。


この一風変わった環境の中で、ケイト・マーレイや他の学生たちは3ヶ月間のトレーニングを経て人気スシ・シェフへと生まれ変わる。見習いたちはこの大変厳しいプログラムで、ずらりと並んだ魚・他素材の迅速且つ美しい扱い方やさばき方を叩き込まれる。スシ・シェフは料理人であると共にエンターテイナーでなければならないとケイトは悟る。そしてまた、芸術家でもなければならない、と。「ある意味、スシを握ること、サシミを造ることと、禅宗庭園の創造とは共通点がある」、とコーソンは言う。
ケイトはまた、女性シェフとして、更に大きな障害に立ち向かう。長い間、プロのスシ・シェフになるということは、男性のみに許された領域だったからだ。


コーソンは日本語が堪能であり、欧米ジャーナリストとして前代未聞の日米スシ/鮨世界への扉を開く。ケイトの嵐のような見習い修行を追いながら、コーソンは読者をスシの裏舞台へと案内する— フットボール場40個分の広さがある日本の魚市場へ、カルフォルニアの水田へ、オレゴンのワサビ田へ、
また、ニギリに使われる魚介類の生物学へ。今作品でも、ベストセラー作品『The Secret Life of Lobsters』と同様に、詳細な科学知識と一流のジャーナリスティックな観察とが効果的に融合し、心を掴む人間ドラマが語られる。『The Story of Sushi』は日本人、そして今やアメリカ人にも愛されているこの知られざる食文化の全く新しい光景を見せる唯一の著作である。







トレヴァー・コーソン

Trevor Corson


略歴:


1969年 アメリカ、ボストンに生まれる

1986年 高校の夏休みに日本ホームステイ

      初めて鮨と出会う

1987年 奨学生として北京師範大学に二年間留学

      留学中にジャーナリストとして執筆活動を始める

1994年 米プリンストン大学にて宗教学、東アジア学の学位取得

1995年 日本の仏教寺院で二年間仏教を勉強する

1998年 ジャーナリストとして、雑誌 The Atlantic Monthlyに勤務

2000年 米ハーバード大学ジャーナル Transition の編集者を務める

      Alternative Press Award 国際報道部門を3度受賞

      National Magazine Awardの総合部門にノミネートされる

2004年 著書 The Secret Life of Lobsters を出版

      The Best American Science Writing の作品集に収録される

      USA Today により A Best Nature Book of the Year に

      選出される

2007年 著書 The Story of Sushi を出版


その他の執筆活動:

The New York Times、The Wall Street Journal、The Los Angeles Times、The Boston Globe、The Atlantic Monthly に寄稿。

現在、ニューヨーク市で新著書を執筆中。







よみタイム (ニューヨーク) 2009年2月6日号掲載


ノンフィクション作家 トレヴァー・コーソン


「寿司」の醍醐味アメリカ人に

「The Story of Sushi」にホンモノ込めて


「歴史、食べ方、マナーなど本当の寿司がわかっていないアメリカ人が本当に多い」と常日ごろ思っていた。何とか、アメリカ人に寿司を知ってもらおうと「ザ・ストーリー・オブ・スシ」を上梓した。
 レストラン格付けのザガットからもお勧め本としてリストされている。
 「誰もが興味を持って読んでくれる読みやすい本が書きたかった」と流暢な日本語で、コーソンさんはいう。この本の読みどころは、スシブームと言われるアメリカで、「多くのアメリカ人が伝統的な寿司を、本物の寿司を食べたいと思っているのに、大きな隔たりがあるのが現実」だ。
 ロサンゼルスにあるスシシェフを目指すアメリカ人の学校を取材するうちに、問題点が次第に浮き彫りになってきた。
 メインキャラクターは21歳のサンディエゴ出身の若い女性。「寿司シェフになりたいというアメリカ人て意外に多いんですよ。僕もびっくりした。彼女も初めは寿司シェフになりたいというだけで、寿司のことは何もわかってない。日本人のシェフについていろいろ習って、だんだんと分かってくるんです」。
 アメリカ人が本当の寿司のことが知りたいと思っても、言葉や文化の違いもあり、日本人の寿司職人自身が、アメリカ人の寿司の食べ方をみて、嫌気がさし、ちゃんとしたものを作らない。
 「小皿に醤油をダブダブ入れて、わさびをいっぱい溶いて、そこにサカナをべちゃっと漬けて食べる人が多い。サカナの微妙な味など分かりようがない。ただ醤油とわさびの味が残るだけ」とアメリカ人の寿司の食べ方に注文をつける。
 もともと、カウンターで食べるという習慣がなく、テーブルで寿司デラックスを注文して、自我流で食べることが多い結果だという。
 「寿司職人というのは、アメリカで言えばバーテンダーみたいな部分もあるし、メニューを見て注文するというより、今日は何がいいの? と客が聞き、寿司職人がネタを推薦するという、客と板さんのインタアクションがとても大事」と説明する。
 ワシントンDCの高校に入った年の夏休み1か月だけ日本に留学。特に日本に興味があったわけではなかったが、16歳での日本体験は全てがアドベンチャーだった。さらに広島での被爆者との出会いはその後、大きな影響を及ぼす。
 高校卒業後は2年間、北京へ留学。中国語、歴史、道教などを学んだ。当時、同室に日本人留学生がいたり、日本人のガールフレンドが出来たり、中国にいながら日本への興味が深まる。アメリカに戻った後、プリンストン大学に入学。その後2度日本に留学、大学の卒業論文は「空海弘法大師と真言宗について」だった、という変り種。
 その一方で、子どものころ、夏休みはかならずメイン州の祖父母の家で過ごした。そのためかロブスターを捕る漁師に憧れた。手製のおもちゃのロブスターボートを作って裏庭で遊んだ。2度目の日本から戻って、メイン州でロブスター捕りの漁師を2年間経験。
 「冬はヒマなんで、小説なんかも書いてました。全然駄目でしたけど(笑)」。自分はノンフィクションが向いている、とボストンに移り、編集者となる。「アトランティック・マンスリー」などに連載した、ロブスターにまつわる話を「シークレット・オブ・ロブスターズ・ライフ」として上梓。生物学的なロブスターの可笑しな話や漁業問題、環境問題などが、楽しく読めると世界中から注目されベストセラーとなる。
 「メイン州の小さな島の漁師の話と、ロブスターの話。ニューイングランドでは魚が乱獲されて捕れなくなったのに、ロブスターだけは増え続けてるし、漁師は儲けているんです。何故か?このビッグシークレットを科学者や漁師が共同で研究、さらにロブスターのセックスやロブスター同士の激しいバトルなんかが受けて、びっくりするほど売れましたね(笑)」とベストセラーの「秘密」を話す。
 日本と関わっていたいと、2冊目は仏教関係か被爆者の本を書こうと思っていたところ、編集者から、1冊目と関係のあるテーマを日本がらみで探せ、と言われて、思いついたのが「ストーリー・オブ・スシ」というわけだ。
 「よく、どの寿司店がいいですかと聞かれるけど、まず自分自身が信頼できる板さんを持つこと。そこからがスタートですね。今、サイドビジネスとして寿司・コンシアージュとしてもやってるんです。本物の寿司が知りたい人には、僕が知っている寿司シェフのところへ連れて行って、ガイド役を務めるんです。楽しく学ぶ、というのが人生の醍醐味じゃないですか」。
 マルチな才能は当面、寿司の世界でさらに開花しそうだ。(塩田眞実記者)






    


ニューヨーク・タイムズ・オピニオン:「2人でスシを 」

New York Times Op-Ed: “Sushi for Two”


トレヴァー・コーソン(著)

by Trevor Corson


July 15, 2007


クロマグロの枯渇問題が一面記事になって、もうスシは食べられないのでは、と私だけでなく国中の人が混乱し心配しているが、われわれもサカナも、新しいスシの食べ方については、スシ職人と客とが合意に達したアメリカ流スシから学ぶところが多いのではないだろうか。


スシ通や漁業会社は、マグロはスシには欠かせないものでその漁獲の制限は伝統的な日本文化を脅かすものだと主張するがそれはナンセンスな話。伝統的に日本人はあの脂っこい部分はスシには向かないと考えて、ボイルした貝・エビ・カニ、サバ類の酢〆、タイやヒラメの薄切りなどを珍重していた。そこに20世紀になって入ってきた西洋料理を知った日本人はマグロの赤身とともにトロを愛でるようになったのである。


それでもなお日本人はこだわりを持っている。東京で近所のスシ屋に行った時のこと、スシ屋の主人は名バーデンダーのごとく客の名前をみんな知っていてにぎる間も客と軽口をたたく。テーブルとメニューではなく、バーカウンターに客が腰掛けて旬の味は何かと尋ねると、仰々しくなくてもこれは、という小魚、歯ごたえの良い貝、驚くほどやわらかいタコなどを出してくれる。


スシが米国進出した1970年代、日本人のスシ職人は伝統的なネタでアメリカ人を慣らそうとして、日本にあるご近所のスシ屋のように楽しい会話があって、メニューなしの納得価格で信頼関係をつくろうとした。


しかしアメリカのスシにはちょっとした裏話があって、アメリカ人客は日本人のように幅広い評価力を持っていないと見た日本人スシ職人は最初からアメリカ人を教育せずに、マグロ、サーモン、ボイルエビといったシンプルなネタで勝負に出た。


今アメリカ人の多くは、むずかしい顔つきのスシ職人を敬遠して、カウンターには座らず、注文の仕方や支払方法もわからずにいる。自分たちのスシを理解してくれないアメリカ人に飽き飽きしたスシ職人は、それに代わって、楽しくていい味の特別なトッピング(ネタ)を考えつく。


というわけでアメリカ人は、べらぼうに高いエリート向けレストランでスシ職人主導のおまかせスシ、そして安価で見当のつく値段の近所のスシの双方から離れられないことになったが、この両極端が、高価なクロマグロの大トロにも、化学薬品で赤色を保ち何ヶ月も冷凍保存された味のない赤身にも依存しなければならない理由なのだ。


われわれに必要なのはマグロ自体ではなく、われわれ自身を見出すアメリカン・スシのルネッサンスであり、きっとそれは日本人にも、スシとは何か、を考えさせることになるだろう。近所のスシバーに行くことは、調和のとれた温和な感覚で、すばらしく多様な海の恵みをめでる、社会的コミュニケーションなのだ。


客はテーブルについてメニューなど見ないことをおすすめする。カウンターに腰掛け、今日のおすすめは何か、どうやって食べたら美味しいかなど何でも職人に聞くべきだ。そしてアメリカ人が溺愛するマグロに背を向けて(初心者はサバで)、ニセわさびの代わりに(職人にまかせ)、醤油をつけ過ぎないで(必要なら職人にまかせて)、ハシは使わないこと(指を使えば職人も日本のようにゆるく握る)。このようにシンプルなルールでスシ職人と友人になれるなんて、そしてこんな新しい味のアドベンチャーができるなんて、と驚くこと請け合い。


その代わり職人は、日本人であろうとなかろうと、スシの伝統文化をたたえて、ストイックにならずにわれわれに教え、にぎる前に予算についても喜んで率直な会話を交わすべきで、それがアメリカ人客を快くシェフのおすすめに従わせる唯一の方法なのだ。スシは安くなければならないわけではないと同時に法外な値段であってもいけない。それでは常連の客層ができないからだ。


職人シェフと兄弟付合いするのはアメリカ人にとって苦手かも知れないが、われわれはもう40年間アメリカでスシを食べているのだからそろそろわれわれ自身のため、そして戦闘態勢のマグロのためにも、見直す時期がきた。スシ屋のカウンターで話そうじゃないか。


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The Story of Sushi — 日本語

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